大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(レ)106号 判決

控訴人兼被控訴人(第一審原告) 松雪勝蔵

右訴訟代理人弁護士 佐々木茂

被控訴人兼控訴人(第一審被告) 花垣武夫

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 白石光征

主文

一  第一審原告の本件控訴を棄却する。

二  第一審原告に対し、昭和四五年六月二四日以降毎月末日限り、第一審被告花垣武夫は、一ヶ月当り九、〇〇〇円を、同戸ヶ崎卯之吉は、一ヶ月当り一万三、〇〇〇円をそれぞれ支払え。

三  第一審原告の当審における請求中、その余の請求を棄却する。

四  当審における訴訟費用は全部第一審原告の負担とする。

五  この判決は、第二項および第四項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  第一審原告(以下控訴人という)の控訴の趣旨

(一)  原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

(二)  第一審被告花垣武夫(以下被控訴人花垣という)は、控訴人に対し、控訴人から一〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録(一)記載の建物(以下本件(一)の建物という)を明渡せ。

(三)  第一審被告戸ヶ崎卯之吉(以下被控訴人戸ヶ崎という)は、控訴人に対し、控訴人から一五〇万円の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録(二)記載の建物(以下本件(二)の建物という)を明渡せ。

(四)  被控訴人脇繁子、同脇義一は、控訴人に対し、本件(一)の建物の二階部分を明渡せ。

(五)  (二)、(三)項が認められない場合は、予備的請求として、

控訴人に対し、昭和四五年六月二四日以降毎月末日限り被控訴人花垣は一ヶ月当り四万円を、被控訴人戸ヶ崎は一ヶ月当り五万円をそれぞれ支払え。

(六)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決並びに第(二)ないし第(五)項について仮執行宣言。

二  控訴人の控訴の趣旨に対する被控訴人らの答弁

控訴棄却の判決。

三  被控訴人花垣、同戸ヶ崎の控訴の趣旨

(一)  原判決中被控訴人花垣、同戸ヶ崎敗訴部分を取消す。

(二)  控訴人の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

との判決。

四  被控訴人花垣、同戸ヶ崎の控訴の趣旨に対する控訴人の答弁

控訴棄却の判決。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  被控訴人花垣は、昭和二〇年二月一一日本件(一)の建物を、被控訴人戸ヶ崎は、昭和一九年三月頃、本件(二)の建物を、それぞれ石川洵から賃借したが、右各建物の所有権は、右石川から山田喜一郎へ、次いで昭和三九年八月三一日控訴人へと譲渡されて、控訴人が右賃貸人の地位を承継し、その当時の賃料は各一ヶ月一、三〇〇円であった。

二  控訴人は、被控訴人花垣および同戸ヶ崎に対し、昭和四三年七月一日、口頭で、右各賃貸借契約につき、解約の申入れをしたが、右解約申入れには次のような正当事由があるので、右各賃貸借契約は、これにより、昭和四四年一月一日限り消滅した。

(一) 本件(一)、(二)の建物は、建築後六〇年以上経過して老朽化し、朽廃同様となっているので取り毀す必要がある。

(二) 控訴人が本件(一)、(二)の建物を買受けたのは、その主人と死別し、子供四人をかかえて困窮している娘の住居を確保するためであって、控訴人には、本件(一)、(二)の建物を自ら使用する必要がある。

(三) そのうえ、控訴人は、本件(一)、(二)の建物およびその敷地を購入するため、一、二〇〇万円に及ぶ借財をなし、毎月多額の金利負担にあえいでおり、この巨額の負債を整理するため、本件(一)、(二)の建物を取り毀し、その敷地を処分する必要に迫られている。

(四) なお、控訴人は、昭和四五年六月二四日の原審第六回口頭弁論期日において、被控訴人らが本件(一)、(二)の建物を明渡す場合には、立退料として、被控訴人花垣に対し、五〇万円、被控訴人戸ヶ崎に対し七〇万円を支払う用意がある旨表明し、当審において、昭和四七年九月一一日の第三回口頭弁論期日に、右各立退料としてそれぞれ一〇〇万円と一五〇万円を支払う用意があることを表明した。

三  被控訴人脇繁子、同脇義一は、本件(一)の建物の二階部分に居住し、これを占有している。

四  仮りに、右正当事由に基づく解約申入れが理由がないとしても、

(一) 被控訴人花垣は、本件(一)の建物の二階部分を被控訴人脇繁子、同脇義一両名に転貸しているので、控訴人は、昭和四四年七月一〇日被控訴人花垣に到達した書面で、右無断転貸を理由に、本件(一)の建物の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

(二) 被控訴人戸ヶ崎は、いずれも控訴人に無断で、昭和四二年一〇月頃樋を改造し、同四三年三月頃鉄製の物干を増築し、同年八月頃には本件(二)の建物の二階の窓部分を全面的に改造したので、控訴人は、昭和四四年四月一一日被控訴人戸ヶ崎に到達した書面で、右無断増改築を理由に、本件(二)の建物の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

五  仮りに、以上の請求が認められないとしても、一ヶ月一、三〇〇円との賃料は、近隣の賃料に比し、著しく低廉で、不当となったので、控訴人は、昭和四五年六月二四日の原審第六回口頭弁論期日において、被控訴人花垣に対し、本件(一)の建物の賃料を一ヶ月四万円、被控訴人戸ヶ崎に対し、本件(二)の建物の賃料を一ヶ月五万円に、それぞれ増額する旨の意思表示をした。

六  よって、控訴人は、

(一) 被控訴人花垣に対し、一〇〇万円の支払と引換えに、本件(一)の建物の明け渡しを、右明渡が認められない場合は、昭和四五年六月二四日以降毎月末日限り一ヶ月当り四万円の割合による賃料の支払を、

(二) 被控訴人戸ヶ崎に対し、一五〇万円の支払と引換えに、本件(二)の建物の明け渡しを、右明け渡しが認められない場合は、昭和四五年六月二四日以降毎月末日限り、一ヶ月当り金五万円の割合による賃料の支払を、

(三) 被控訴人脇繁子、同脇義一両名に対し、本件(一)の建物の二階部分の明け渡しを、

各求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実中、控訴人主張の日にそれぞれ解約の申込みをなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件(一)、(二)の建物は、昭和一〇年ごろ四戸建一棟として建築されたもので、未だ朽廃はしていず、なお当分の間居住の用に供しうるものである。また、控訴人は、本件(一)、(二)の建物を、不動産業者の山田喜一郎から転売利益の取得を目的とし、しかも、被控訴人ら賃借人が現に居住していることを熟知して買受けたものであるから、その主張の如き正当事由を有するものではない。

三  同第三項の事実は認める。

四  同第四項の事実中、控訴人が、昭和四四年七月一〇日被控訴人花垣に対し、同年四月一一日被控訴人戸ヶ崎に対し、それぞれその主張の如き理由で本件(一)、(二)の建物の賃貸借を解除する旨の意思表示をしたこと、被控訴人脇繁子、同脇義一が本件(一)の建物の二階部分を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。被控訴人脇繁子は、被控訴人花垣の妻晴子の実弟脇義夫(昭和四一年一二月二四日死亡)の妻であり、被控訴人脇義一はその子(昭和二三年二月一二日出生)であって、いずれも被控訴人花垣の親族として同居させているものであるから、転貸には当らない。

五  同第五項の事実中、控訴人が、昭和四五年六月二四日の原審第六回口頭弁論期日において、被控訴人花垣に対し、四万円、被控訴人戸ヶ崎に対し、五万円の各賃料増額の意思表示をしたことは認める。

(抗弁)

仮りに、被控訴人脇繁子、同脇義一の本件(一)の建物二階部分占有使用が転貸に当るとしても、被控訴人花垣は、昭和二三年一月七日、当時の建物所有者であった石川洵の承諾を得て、亡脇義夫およびその妻の被控訴人脇繁子(被控訴人脇義一はその後出生)に転貸したものであるから、右石川の貸主たる地位を承継した控訴人は、右転貸を当然に承認すべきものである。

(抗弁に対する認否)

否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因第一項の事実、ならびに、控訴人が、昭和四三年七月一日、被控訴人花垣、同戸ヶ崎に対し、口頭で、本件(一)、(二)の建物の賃貸借契約につき、解約の申入れをしたことは当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、右解約申入れについての正当事由の有無につき判断する。

(一)  原審鑑定人平沼薫治の鑑定の結果によると、本件(一)、(二)の建物は、昭和初年代に四戸建一棟の建物として建築されたもので、本件(一)の建物は、便所の土台につき取替えの必要があるほか、北東角および南東角の柱に根継ぎがあって、建物全体に平均して五分ほど傾斜し、東側窓に建付の不良な箇所があり、下屋の南側が破損して畳の表替えの必要があり、また、壁にも一部塗替を要する部分があり、さらに二階東側の敷居も修理する必要がある状態にあること、本件(二)の建物は、西南角の柱に根継ぎがあり、全体として平均三分位の傾斜があるが、建具の開閉には支障がなく、下屋の東側が破損していること、しかし、右両建物とも雨漏りはなく、その他には、その基礎、土台、柱、内外壁、屋根等の建物の基幹部分に構造上格別の異常はなく、建築後約四〇年を経ているが、今後なお一〇年程は住居または店舗としての耐用年数を有することが認められる。

もっとも、原審鑑定人西村康哉の鑑定の結果によれば、本件(一)、(二)の建物は建築後約四〇年経過し、様式の陳腐化、利用効率の低下などからして、物理的にはともかく機能的、経済的にみて取り毀して建直すことが相当であるというのであるが、建物自体としては、外柱の下部に腐触がみられ、土台の一部が腐触して取替の必要があることの他は、使用するのに特に支障はないというのであって、その結論は、あまりにも経済的効用を重視し過ぎるきらいがあって採用できない。

したがって、本件(一)、(二)の建物は、部分的には修理を要するとはいうものの、全体的にみると、未だ朽廃の程度には達していないものと認めるのが相当である。

(二)  次に、≪証拠省略≫によると次の事実が認められる。

1  控訴人は、昭和三九年八月、不動産業者の山田喜一郎から、本件(一)、(二)の建物を含む四戸建居宅一棟および右建物の南側の三戸建居宅一棟を、各建物に被控訴人花垣、同戸ヶ崎ら賃借人が居住していることを知りながら、代金五五〇万円で買受け、次いで、昭和四四年三月一〇日、前記四戸建一棟の建物敷地である土地二〇三・六〇平方メートルを代金四〇〇万円で、前記三戸建一棟の建物敷地である土地一五二・六二平方メートルを控訴人の娘副島幸子名義で代金約二〇〇万円で、いずれも国から払下を受けたこと、

2  控訴人は、右各建物買受直後から、右各建物に居住していた賃借人らに対し、強く明け渡しを要求し、右三戸建居宅一棟については、居住していた二世帯の賃借人らを立ち退かせた後、右建物を取り毀わし、昭和四四年四月、その敷地を第三者に売り渡し、四戸建一棟の居宅についても、昭和四五年一月頃、公道から二軒目の一戸分の明渡を受けるや、同年三月頃、被控訴人花垣、同戸ヶ崎ら同建物の居住者や近隣居住者からの異議を無視して取り毀しを強行したこと、

3  控訴人は、右各土地・建物を購入するに当り、いずれもその資金を金融機関から借入れたため、その負債総額は、昭和四五年末には約一、五〇〇万円に達し、多額の金利負担に苦しんでいること、

4  被控訴人花垣は、本件(一)の建物に昭和二〇年以来居住し、年令も六〇代の半ばを越え、妻と二人暮しであるが、共稼ぎをしてその生計を維持していること、

5  被控訴人戸ヶ崎は、昭和一九年三月頃から本件(二)の建物に居住し、洋服仕立業を営んでいるが、その顧客の大部分は近隣居住者であって、他へ転居することにより、これを失うおそれがあり、最近は健康もすぐれないため、仕事も思うにまかせない状態にあること、

以上の事実を認定することができる。

控訴人は、自己使用の必要をいうが、その主張の如く娘達を本件各建物に居住せしめようとした形跡は、本件全証拠によっても認めることができず、かえって、右認定のとおり被控訴人ら賃借人が現に居住していることを十分承知して買受け、しかも、買受直後から各賃借人に明渡しを要求し、明渡しを受けた建物は、これを取毀して、その敷地を他に売却しているのであるから、その買受の目的は、自己使用というよりも転売利益の取得にあったものというべきである。また、負債整理のための処分の必要というも、自ら招いた結果であって、右に認定した被控訴人花垣、同戸ヶ崎の本件(一)、(二)の建物を使用すべき必要性に比し、その明渡し請求を正当づけるものと解することはできない。

(三)  したがって、控訴人が本件解約申入れの理由として主張するところは、これらを総合して判断しても、いずれも正当事由たりえないものというべきである。なお、控訴人は、原審ならびに当審において、それぞれ立退料の提供を申出ているが、このことを参酌しても、右結論にかわりはない。

よって、解約申入れを理由とする明渡請求は、失当として棄却を免れない。

三  次に、賃貸借契約の解除の主張について判断する。

(一)  被控訴人脇繁子、同脇義一が本件(一)の建物の二階部分を占有していること、控訴人が、昭和四四年七月一〇日被控訴人花垣に到達した書面で、同被控訴人が本件(一)の建物の二階部分を被控訴人脇繁子、同脇義一に無断転貸したことを理由として、本件(一)の建物についての賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

しかし、≪証拠省略≫によると、被控訴人脇繁子は、被控訴人花垣の妻晴子の弟脇義夫の妻であって、戦災に遭って住居を失い、その夫とともに、昭和二三年一月頃から、被控訴人花垣居住の本件(一)の建物の二階部分に同居するに至ったもので、同年二月一二日その間に被控訴人脇義一が出生したが、昭和四一年一二月二四日夫義夫は死亡したこと、そして、被控訴人花垣は、右同居を始めた頃、差配の祖父江らを通じ、右同居について、当時の所有者である石川洵の諒解を得ていたことを認めることができる。≪証拠判断省略≫

したがって、控訴人は、前記のとおり、その後本件(一)の建物を買受けたことにより、右建物について、賃貸人の承諾ある転貸権を伴う賃貸借の貸主たる地位を承継したものというべきであって、右無断転貸を理由とする契約の解除は理由がない。

(二)  控訴人が、昭和四四年四月一一日被控訴人戸ヶ崎に到達した書面で、無断増改築を理由として、本件(二)の建物の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことも当事者間に争いがない。

しかし、≪証拠省略≫によると、被控訴人戸ヶ崎は、昭和一九年本件(二)の建物に入居当時、所有者石川洵の承諾のもとに、右建物の一階部分を店舗用に改造したことがあるが、その後においては、本件(二)の建物の二階西側窓の外に床を突き出し、地上から一本と下屋の屋根から二本の細い柱で支え、上にビニール板の屋根を張り、周囲に金属製の手すりを付けた物干台を設置したほかは、破損した窓枠とガラスおよび樋を新しく入れ替えたことがあるに過ぎないことが認められ、これらは、いずれも建物使用の必要上なされた極めて軽微な改造もしくは修繕の域を出ないものというべきであって、建物の用法の変更には当らないものというべきであるから、本件(二)の建物についての無断増改築を理由とする契約解除の主張もまた理由がない。

四  そこで、進んで、控訴人の予備的主張について判断するに

昭和三九年八月、控訴人が本件(一)、(二)の建物の賃貸人たる地位を承継した当時の賃料は、一ヶ月各一、三〇〇円であったところ、控訴人が、昭和四五年六月二四日の原審第六回口頭弁論期日において、被控訴人花垣に対し、本件(一)の建物の賃料を一ヶ月四万円に被控訴人戸ヶ崎に対し、本件(二)の建物の賃料を一ヶ月五万円にそれぞれ増額する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

しかして、公知の事実というべき右期間における諸物価の高騰、公租公課の増徴等の経済事情の変動を考慮すれば右現行賃料は明らかに不相当なものになったものというべきところ、原審鑑定人西村康哉の鑑定の結果によると、右増額請求当時の本件(一)、(二)の建物の適正賃料は、右現行賃料を基礎とすると、本件(一)の建物については一ヶ月金二、三六三円、本件(二)の建物については一ヶ月二、三九五円であることが認められる。しかし、右各賃料額は、現下の社会、経済情勢の下においては、本件(一)、(二)の建物程度の規模の建物の賃料としては低廉にすぎるものというべきであって、直ちに採用することはできない。

ところで、右鑑定結果は、上述の如き現下の経済状勢から割り出した適正賃料、すなわち本件(一)の建物については一ヶ月一万八、五四六円、本件(二)の建物については一ヶ月二万六、八八一円との数額を基礎とし、右現行賃料額が一ヶ月各一、三〇〇円であることを考慮して、これを修正したものであるが、右経済賃料の計算方法は、本件(一)、(二)の建物およびその敷地の積算価格を投下資本とし、これに年六パーセントの利回りを乗じ、さらに、固定資産税等の諸経費を加えて算出した積算方式によるものであって、妥当なものと認めることができるから、右各数額をもって、一応客観的に適正な賃料額ということができる。

しかしながら、本件賃貸借が、前述のとおり、昭和二〇年頃以来ずっと継続して行われてきたものであって、建物の現状も本理由中第二項(一)に認定したような状態であることに加えて、従前の賃料がいずれも一ヶ月一、三〇〇円と著しく低額に据置かれていたとの特別事情があることを考慮すると、本件増額請求当時における本件(一)、(二)の建物の賃料は、本件(一)の建物については一ヶ月九、〇〇〇円、本件(二)の建物については一ヶ月一万三、〇〇〇円とするのが相当であると認める。

したがって、本件(一)、(二)の各建物についての賃料は前記各増額の意思表示が被控訴人花垣、同戸ヶ崎に到達した昭和四五年六月二四日に、それぞれ一ヶ月九、〇〇〇円ならびに一万三、〇〇〇円に増額されたものというべきであって、被控訴人花垣、同戸ヶ崎は、同日以降毎月末日限り、右同額の賃料を支払うべき義務を負うに至ったものであるから、控訴人が当審において新たになした予備的請求は、右認定の限度で理由がある。

五  以上の次第であるから、控訴人の被控訴人らに対する本件(一)、(二)の建物明渡の請求を棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないので、これを棄却し、当審における訴の変更に係る控訴人の予備的請求は、前記認定の限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当として棄却し、第一審被告花垣、同戸ヶ崎の本件控訴は、右訴の変更により対象を失ったので、判断しないこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき、同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 落合威 裁判官 水谷厚生 栗栖康年)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例